作品は自律的な存在になれるだろうか。作品は主題や意味、作家の意図によって理解されるが、それ以前に質感や色彩、構造そのものを感覚的に受け取っている。それらは意味や解釈に先立つ部分に作用すると考え、「流れそう」「崩れそう」「広がりそう」「増殖しそう」「続きそう」といった運動的な印象を生み出す働きを推進力と呼んでいる。作品内部の関係によって展開しているように感じられるものであり、その状態を自律性と呼んでいる。そしてそれは鑑賞者の知覚を通して現れるものだと考えており、制作と展示の往復によって自律的な作品の成立条件を検証している。これは一つの作品や展示ごとの成果を求めると同時に、自律的な作品を探る長期的なプロジェクトでもある。背景には、作品が作家や時代の文脈を超えて、なお人に働きかけ続ける存在になりうるのではないかという関心がある。

 素材としての油彩は制作技法の制限や重力、流動性の影響を受け、作家の意図だけでは完全に制御できない。重ねることで生じる厚みや滲み、沈み込みなどの形状は、画面に多様な変化をもたらす。その変化のなかに推進力が現れると感じている。

 制作を続けるなかで、推進力の成り立ちに関心を持つようになった。 制作では複雑な現象を要素へ分解し、それぞれの関係を検証しながら全体を捉え直している。推進力は画面全体に漠然と存在するものではなく、質感・色彩・線といった要素の関係から生まれているのではないかと考える。例えば音楽では音程・リズム・ハーモニーといった要素が相互に関係することで、緊張や緩和、運動感が生じる。視覚作品においても、質感・色彩・線といった要素の関係が推進力を生み出すという着想を得た。そのため、複雑な画面をそのまま扱うのではなく、要素を細分化して検証する必要がある。一つの要素を取り出して制作し、その変化やバリエーションを試し、さらに別の要素との組み合わせを検証する。その反復を通して、要素同士の関係がどのような推進力を生み出し、それがどのように知覚へ作用するのかを探っている。

 また、作品は単独ではなく、作品・空間・鑑賞者の関係のなかで成立するものである。作品内部で生じた推進力は、鑑賞者との関係のなかで知覚されてはじめて自律性として現れる。自律性の成立条件を探るために、制作だけでなく展示の実践も必要になる。

 一方で、空間構造や動線といった条件が複雑に重なることで、作品配置や空間構成がどのように知覚に作用するのかは見えにくくなる。そのため、会場固有の条件から一度距離を取る必要を感じ、「pre-exhibition」を行っている。そこでは特定のテーマや会場の文脈をできるだけ排除し、作品同士の関係や配置によって生じる知覚の変化に焦点を当てている。そのうえで、個展や企画では会場固有の条件を含めた環境のなかで、作品の推進力や自律性がどのように知覚されるのかを探る。

 以上のように、制作では推進力の発生を探り、展示では推進力が空間のなかでどのように知覚されるのかを確かめている。両面を往復しながら、自律的な作品の成立条件を探ることがこのプロジェクトの目的である。なぜならば、作品は作家の生を超えて存在し続けることができるからだ。そのため、作品は制作された意図や意味を含みながらも、新たな鑑賞者の知覚を起点に、個々の体験へと展開する可能性を持っている。

 このような関心の背景には、生物や地形、歴史、文化など、異なる領域において複数の要素が関係しながら形成される過程への興味がある。また、制作や展示を一つの成果としてだけでなく、継続的な探究として取り組む姿勢にも影響している。

 このような背景が、作品もまた時間を超えて知覚に働きかける存在になりうるのではないかという問いへと繋がっている。しかし、そのような作品がどのような条件によって成立するのかは未だ明確ではない。だからこそ、制作と展示を往復しながら、時間を超えて知覚されうる自律的な作品の成立条件を継続的に探究していきたい。

参考文献

「美術と視覚 美の創造の心理学 上下」アルンハイム著、波多野完治・関計雄訳、美術出版社

 2026.07